治療のリスクと副作用
矯正治療は歯科医の治療に対する知識と技術、そして患者様の協力でより良い結果を生む事が出来ます。
美しい歯並びとスマイル、良好な噛み合わせを得る間、矯正治療にも体の治療や手術、薬の副作用と同じく、リスクと副作用がある事を記載いたします。
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1.歯痛
矯正装置装着後、個人差はありますがおおよそ3日から~10日間ほど疼きから軽い歯痛を感じることがあります。歯痛がしている間は固い物が食べづらくなりますが徐々に痛みは軽減してきます。
次のワイヤーへ移行するまでは最低でも1か月間空きますので、1週間で痛みが消失した場合は残りの3週間は快適に過ごすことが出来ます。 -
2.虫歯・歯肉炎・歯の脱灰
治療期間中のブラッシングはとても重要になってきます。当クリニックでは矯正装置装着から1週間後に全ての患者様に装置周りの磨き残しが無いかをチェックさせて頂いております。矯正専用の歯ブラシや歯間ブラシ等を使用する事で装置周囲のプラークを取り除く口腔衛生管理は重要です。
歯並びが綺麗に整っても虫歯を作ってしまったら、せっかくの矯正治療が台無しです。虫歯や歯肉炎を発症させないためには“食生活”も重要になってきますので、甘い物やスナック菓子などの取りすぎや過度な間食は避けた方が良いと考えます。
また、歯の移動に伴って不正咬合時には隠れていた“むし歯”が見えるようになることもあります。
歯の移動により重なりが強かった歯と歯の間の虫歯が見えてくること、奥歯に“縁下歯石”があった場合は歯の移動により根面カリエスが見えてくる事もあります。
誤解される患者様が多くいらっしゃいますが、矯正装置を付けたから虫歯になったのではなく元々の虫歯が見えてくる事がほとんどです。
元々虫歯に対するリスクが高い方、虫歯で歯を多く削られ広範囲な被せ物をされている方は特に矯正治療中のブラッシングに相当な注意が必要となります。当クリニックでも可能な限り矯正診療後にブラッシングのチェックとクリーニングを致しますが、最も重要なのは毎日のブラッシングとなります。ブラッシングのチェックとクリーニングをすれば虫歯にならないという事はありません。 -
3.口内炎と潰瘍
頬粘膜、口唇、舌等に出来る事があります。当クリニックではワイヤーやブラケットが粘膜に擦れる事で出来る口内炎や潰瘍に対して粘膜を保護するためのワックスを無料でお渡ししております。また強い症状が出た場合は口腔粘膜治療剤もお渡しいたします。装置装着直後は発生しやすいのですが、口の中の粘膜もだんだんブラケットやワイヤーに適応し口内炎や潰瘍が出来にくくなる場合が多いです。
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4.発音障害
特に裏側から治療する場合、サ行、タ行、ラ行が話しにくくなりますが、多くの方は1か月ほどで慣れます。
その期間に重要な会議あるいは発音・発声を必要とする発表会や試験がある場合は装置を装着する時期を
再検討する必要があります。 -
5.顎間ゴム
治療期間中に歯を良い位置に導くため歯に装着しているブラケットとブラケット(あるいはリンガルボタンとリンガルボタン)の間に透明なゴムをかけて頂く場合があります。
使用しないと治療期間が延びてしまう場合、あるいは装着しているワイヤーによっては反作用が出てしまい予定通りに歯並びや噛み合わせを整える事が出来ません。顎間ゴムは基本的に1日20時間以上の使用が必要となります。 -
6.歯肉退縮(ブラックトライアングル)
治療中に歯肉退縮と言う歯茎が下がり歯の根が一部露出することがあります。
特に30代以上の女性の方に多くみられます。歯を支えている骨(皮質骨)が薄い事も原因となりますが、多くの方の場合は元々重なり合っていた歯の下に骨が存在していなかった事、重なり合っていた歯が原因で歯茎が腫れていた状態から歯列が綺麗に整ってきた事で歯茎のラインが引き締まり下がる事が多いように考えます。30代40代50代で矯正治療をされる方はこの歯根露出からのブラックトライアングルを完全に避ける事は難しいと思います。ブラックトライアングルは矯正治療をしなくても歯茎が健康であればエイジングによっても現れるものです。
ブラックトライアングルに対する対処法はいくつかありますが、対処法に関しては矯正カウンセリング時にお話しさせていただきます。 -
7.歯根吸収と失活
矯正治療中に歯根が短くなることや歯の神経が失活する事があります。
当クリニックでは弱い矯正力で歯を移動させるので、適正範囲外の矯正力をかけた事が原因となる歯根吸収を引き起こす事はありませんが、矯正治療中の一時的な噛み合わせの状態によっても歯根吸収や歯の神経が失活する事もあります。また、特に上顎前歯部を後方に移動させる際に“切歯孔”という部位に歯根の先端がぶつかると歯根吸収する事もあります。
健康な条件下でおこる歯根吸収(歯冠:歯根比=1:1以上)の場合は大きな障害はありませんし、口腔内の状態が健全であれば歯の神経が失活しても直ちに大きな問題を起こす事はありません。
しかしながら矯正治療後に口腔衛生管理を怠ると失活した根先に感染を起こす事もあります。感染を起こした場合は歯の根の治療が必要となります。将来的に重度歯周病を引き起こした場合は歯の寿命に影響する事がありますが、もっとも重度歯周病に罹患された方の場合は根の長さに関係なく歯は自然に脱落してしまいます。 -
8.骨性癒着(アンキローシス)
稀に歯と骨が癒着して動かない場合があります。
骨性癒着(アンキローシス)している事が分かった場合、亜脱臼という方法で歯を抜くような力をかけ揺らしてから再度歯を動かす方法やコルチコトミーという方法で骨性癒着歯(アンキローシス歯)の根の周りの骨を削って歯を動かす試みもします。しかしながら全てが上手くいく訳ではありません。
上手くいかなかった場合は骨性癒着歯(アンキローシス歯)を動かす事を諦め補綴処置と言い、動かなかった歯の形態を被せ物で修正する事、あるいは骨性癒着歯(アンキローシス歯)の抜歯を行い動的矯正治療が終わってから抜いた箇所をブリッジやデンタルインプラントにする場合もあります。 -
9.顎関節症
全てのケースにおこるわけではありませんが、治療中に開口障害・頭痛・耳鳴り・筋の硬直等を生じる事があります。多くの場合は経過観察を行っている間に症状は自然に消失します。強い顎関節症状が出た場合は解熱鎮痛剤の内服や装置を一度撤去し安静にしながら症状の改善を待つこともあります。
また元々顎関節に症状がある方が矯正治療を行うことで顎関節症が治りますか?という問い合わせも多数頂きますが、限られた咬合と症状以外に矯正治療で顎関節症が治ることはないと考えております。限られた咬合と症状に関してはカウンセリングの際にお話しいたします。 -
10.顎の外科手術
成人患者様で上下顎の前後的位置関係や側方関係に大きなズレがある場合、あるいは小児患者様の場合は成長に伴う顎の劣成長や過成長に対して装置使用協力が得られない場合、矯正単独では治療不可能となり外科手術を併用します。
最初の状況から矯正治療単独か外科矯正併用かのボーダーラインのお子様の場合、まずは小児矯正(第一期治療)のみの契約をお勧めしております。 -
11.後戻り
歯は治療後、元の位置に戻る傾向があります。そのため装置除去後、取り外し式のリテーナーを装着し後戻りを抑えます。動的治療終了後6か月間は1日20時間以上リテーナーを装着して頂きます。6か月を経過すると多くの患者様の場合、歯を支えている骨の中で移動した歯の根は安定します。安定してきた頃からリテーナーの使用時間を少しずつ短くしていきます。6か月経過しても安定が悪い方に関しては固定式のワイヤー(インターケーナイン)リテーナーを装着し歯を強固に固定します。
開咬という咬み合わせが開いた症状が強い患者様に対してはあらかじめ後戻りを想定し、オーバーコレクションと言い大臼歯のかみ合わせを敢えて弱く仕上げる場合もあります。 -
12.治療期間の延長
歯の移動には個人差があるため、予想された治療期間が延長する可能性があります。
年齢が40歳台以降の患者様に関しては特に歯を支えている骨が固くなるので中高生に比べ歯の移動速度が遅くなります。
また睡眠時に“歯ぎしり”や“くいしばり”をする患者様も歯の移動が遅い傾向にあります。 -
13.金属アレルギー
マルチブラケット装置を装着している患者様に稀ではありますが、治療途中に金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
その際はアレルギー症状が予想される装置を速やかに口腔内より撤去し金属アレルギー対応の装置に変更します。
ある程度歯並びが完成している場合にはマウスピース型矯正装置(インビザライン)に変更する場合もあります。 -
14.治療計画の変更
様々な問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。
例えば上顎前突症例に非抜歯で大臼歯の遠心移動を行う治療計画を立てた場合、大臼歯が予定よりも遠心に移動出来なかった時は小臼歯を抜歯する計画に変更する場合もあります。
開咬症例に非抜歯で大臼歯の圧下を行う治療計画を立てた場合、大臼歯が予定よりも圧下出来なかった時も小臼歯を抜歯する計画に変更する場合もあります。 -
15.咬合調整と仮歯(TEC) そして再修復と再補綴
歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする可能性があります。
特に不正咬合時に装着された歯の詰め物や被せ物(インレーやFMC)はかみ合わせの調整や動的矯正治療後に再製作が必要となります。
不正咬合を補綴物(被せ物)で無理やり修正されていた患者様に対しては歯を元の状態に戻す目的で仮歯(TEC)に置き換える事もあります。仮歯(TEC)は最終補綴時に使うグラスアイオノマー系レジン系セメントで合着するので、仮歯(TEC)に置き換えている期間で内部に虫歯が進行する事は考えにくいと思います。動的矯正治療が終わった後は仮歯(TEC)を最終補綴する必要となります。 -
16.誤飲
矯正装置を誤飲する可能性があります。
マルチブラケット装置を装着している患者様が食事や睡眠の際に歯の後方部のブラケットやチューブが脱落した場合、矯正装置を誤飲する可能性があります。多くの場合はそのまま食道から胃に落ち排泄されます。激しい咽が生じる場合は精密な検査が必要となります。 -
17.IPR
上下の歯の比率が合わず適正なオーバージェットが獲得できない場合や上下の歯の真ん中が合わない場合は歯のエナメル質の側面を0.3mm~0.5mmほど削合(IPR)しバランスを合わせる場合があります。削合量はごく僅かなので適正なブラッシングやフロッシングが行われている場合は虫歯に発展する事はありません。 -
18.エナメル質のダメージ
装置を撤去する時に、歯の表面のエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
適正なブラッシングが行われていれば微小な亀裂が即座に虫歯の原因となる事はありません。
微小な亀裂から生じた知覚過敏に対しては知覚過敏薬を塗布し経過観察をいたします。 -
19.咬み合わせの変化
顎の骨の成長発育により咬み合わせや歯並びが変化する可能性があります。
当クリニックでの最終的な動的矯正治療(第二期治療)は手指骨の発育状況と身長の増加量の確認、そして最低でも12歳臼歯(第二大臼歯)の完全萌出を待ってから開始いたします。全身成長がほぼ終了した時点で最終的な動的矯正治療(第二期治療)を行う事でかみ合わせの変化を最小限に抑える事が出来ます。 -
20.親知らず(第三大臼歯)の影響
治療後に親知らずが生えて、凸凹が生じる可能性があります。加齢や歯周病等により歯を支えている骨がやせると咬み合わせや歯並びが変化することがあります。その場合、再治療等が必要になることがあります。
理想的には動的矯正治療が終了し保定経過観察中までに必要と判断された親知らず(第三大臼歯)の抜歯をお勧めしております。 -
21.矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。
不正咬合を正常咬合に戻すのが矯正治療となります。矯正装置にて元々の不正咬合を完璧に再現し戻す事は極めて難しい事となります。